2017年4月5日水曜日

レンズの中

   レンズの中

空では
ひばりの奴が光つた
河沿の小径を空ばかりみつめながら
晴衣をつけたうら若い女があいてゐたが
あぶないツ! と思ふまに
ざぶりと おつこちた
発狂でもしたやうな顔つきで
ずぶぬれの裾をつまみあげて
やうやく河の中からおきあがつたが
それから……
ぼくが木橋の上から
双眼鏡でをれを見てゐる
大きな眼をもつたぼくが
笑ひながらむさぼるやうに女の動作を見てゐる
春めいた広汎な風景の中で
やつぱり平々凡々な郊外散策地で
たつた一つこのレンズの中がすこしばかり狂つてゐる
さあそこで
ぼくはこの女をもつともつと笑つてやらう


望遠鏡は、肉眼で観察するには正立像が望ましいので、倒立像を正立像にする素子を対物レンズと接眼レンズの間に挿入しています。また、持ち運びができる小型にするため、光路を折り返して鏡筒の長さを短くしています。

「双眼鏡」はガリレイ式望遠鏡と同じく凸の対物レンズと凹の接眼レンズを組み合わせた低倍率(2〜6倍)のものと、対物レンズと接眼レンズの双方に凸レンズの作用をするレンズを用い、さらに内部に全反射プリズムを組みこんだ高倍率(4〜15倍)のプリズム双眼鏡があります。

現在の主流となっているのはプリズム双眼鏡で、その誕生は双眼鏡が普及しだした19世紀に入ってからのことです。イタリアのポロにより、原型が開発されました。

日本に双眼鏡が登場するのは20世紀に入ってから。1911年、藤井レンズ製造所によって日本で最初の双眼鏡が開発され、1917年には同製造所の技術がニコンに引き継がれました。第二次世界大戦中に陸海軍の必要を満たすため、飛躍的に進歩しました。

白昼使用する双眼鏡では対物レンズの直径は3ミリメートル×倍率ですが、夕暮れ時に使用する双眼鏡では6ミリメートル×倍率の直径が必要であるそうです。外界の明るさが変化すると、肉眼の瞳孔径が3~6ミリメートルの範囲で変化するためです。

双眼鏡の外の風景は平々凡々何ごとも起りはしない郊外散策地であるが、双眼鏡の中の風景は「すこしばかり狂っている」のだ。「ぼく」は双眼鏡にしがみつき、むさぼるようにみつづける。そしてやはり「笑う」のだ。《安》

0 件のコメント:

コメントを投稿