2017年5月13日土曜日

風景(九)

   風景(九)

暗い海と
入江のほとり
日本のこのしづかな原にも
鉄や電気や石油がきて休んでゐる。
あれは北亜米利加のどこだらう。
チャップリンの「モダンタイムス」で見た
あの葦原は大きかつた。
世界の大工場地帯の風景といふものは
お互ひになんとよく似てゐるのだらう。
地平は浮彫のやうに鮮明に
気候風土の靄がかからない
さびしさだ。


「モダンタイムス」(Modern Times)について淀川長治は『ニッポニカ』に次のように記しています。

アメリカ映画。1936年作品。38年(昭和13)日本公開。製作・脚本・監督・主演・伴奏音楽作曲チャールズ・チャップリン。タイトル・バックは時計の文字盤。現代の人間が時計に支配され、労働者はあたかも機械の一部分のごとくベルトコンベヤーから流れる商品に向かって同じ労働を繰り返す。人間性はすでになくなっている。

チャップリン扮(ふん)するチャーリーは気が狂い入院。退院するや職を失い、同じく父と死別の孤児の娘と協力して働き口を探す。娘がレストランのダンサーとなり、彼女の助けで給仕人になるが、歌を歌えと主人に命じられ、歌詞をカフスに書き込むが、飛び出した瞬間それを失い、世界に通ぜぬ即興の「ことば」で歌う。

サイレントに固執したチャップリンは、ここでも台詞(せりふ)のないサウンド版として発表したが、上記の一か所だけで処女作以来初めて画面から「声」を発した記念的作品。共演は彼の三度目の結婚相手のポーレット・ゴダード。資本主義社会への風刺、トーキーへの皮肉をも込め、工場、デパート、囚人生活、あらゆる現代社会をみせながら、その風刺は厳しい。

*チャップリンの映画「モダンタイムス」をみた小野は掘立小屋の背後に広がっていた広大な葦原に目を奪われる。
「わたしは、そのとき、世界には、どこへ行っても、気候風土の靄のかからない透明さと寂莫が支配しているところが一つあることを発見し、確認した」(『奇妙な本棚』)
 チャーリー・チャップリンがアメリカの工場地帯でみたもの、オルダス・ハックスリーが日本の工業地帯でみたもの、それと同じものを小野は大阪の葦原にみたわけだ。《安》


0 件のコメント:

コメントを投稿