2017年5月20日土曜日

今日の羊歯

   今日の羊歯

海近く
地は劃られてゐる。
冬陽が射してしづかだ。
大気はかすかに硫酸銅を含み
そこには鉄と電気とカーバイトがゐる。
見よ、赤錆びた葦を。
炭化する羊歯のやうに
この索寞とした原へ
徐々に精神の同化を完了してゆく禾本科植物。
それからすでに透きとほつた或種の小鳥、蜻蛉、蜆蝶。
そいつらの小さな魂たち。
人間はずうつとまだおくれてゆく。


「禾本」(かほん)は、イネ科植物のことです。イネ科の特徴は、一般に節があって中空の幹 (稈) があり、線形の長い葉は平行脈で下半部は鞘をなし、葉鞘と葉身の境に膜状の葉舌があります。花は小さな花の集りである小穂と呼ばれる独特の構造をもちます。小穂には包穎、外花穎、内花穎などがあり、内花穎に包まれておしべとめしべがあり、これが熟したものが穎果です。

「蜆蝶」(シジミチョウ)=写真、wiki=は、鱗翅目シジミチョウ科に属する昆虫の総称。開張1.4~6.5cm。世界に約5500種が知られています。日本には、アカシジミ、ウラギンシジミ、ウラナミシジミ、ゴイシシジミ、トラフシジミ、ヤマトシジミなど約70種が土着しています。小さなシジミを開いたような感じがするのに、その名の由来があります。青、緑、赤などの美しい金属光沢をもつ種類が多いが、オスに比べメスの色彩は地味です。

*昭和15年に山雅房から出た『現代詩人全集』第1巻に小野は「今日の羊歯」と題して一群の詩を発表したが、そのプロローグに次のように書いた。「人がそれを歴史とよぶところのものには何かしら私をゾッとさせるものがある。追っ立てられるように私は明日へ向って避難をこころみる。私の羊歯や鱗木や三葉虫へ。私は性来好戦的だが、ただもう少ししずけさがほしいのだ」。このなかにある「明日」という言葉を「夢」といってもいい。「夢」のなかで葦も小鳥も蜻蛉も蜆蝶も徐々に「葦の地方」の「もの」と同化していく。人間のみが「ずうつとまだおくれてゆく」のだ。「もの」に同化しきれないでいつまでも「精神」にひきずられているというのだ。《安》

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