2017年5月29日月曜日

サルガス

   サルガス

遠い
未知の
海の涯にまた一つの海がある。
それはむかしダーウィン海峡で見たと云ふあの暗い藻の海に似てゐる。
夜も昼もない。
測定しきれぬ。
ただもうふしぎにしづかな暗黒の大波濤の中に
数千万立方粁にわたつて
溶けた膠のやうな物質が累々たる層をなして搖動してゐる。
たとえばそれは曹達や苛性加里だ。
塩素や臭素や沃度のごときだ。
フコースや燐だ。
或は透明な肢体を張つて
一滴の海水を宇宙とするものらだ。
飽和する元素。
生命と物質。
夜も昼もない。
ただもうしづかだ。


「サルガス」(Sargas)は、現在は、さそり座θ(シータ)星(しっぽを構成する2等星)の呼び名になっています。もともと、さそり座λ(ラムダ)星とυ(ウプシロン)星を指していたそうで、2016年8月に国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループが、さそり座θ星Aの固有名として正式に認めたのだとか。シュメールの神話に出てくる神、マルドゥックが使う2つの武器に由来しているそうです。

さそり座は、夏の宵の南の空低くに見える星座で、真っ赤な1等星アンタレスを中心に十数個の明るい星がS字形の曲線を描いています。ギリシア神話では、狩人のオリオンが「この世に自分ほどの強者はいない」と豪語したため、女神ヘラがこの毒サソリを放ってオリオンを刺し殺させたといいます。

「膠」は、工芸の接着剤や絵の顔料の溶剤などに使われる「ニカワ」で、「曹達」は 炭酸ナトリウムの俗称の「ソーダ」。「苛性加里(カセイカリ」は洗浄剤や石鹸の材料として用いられる水酸化カリウムのこと。

*ふしぎな魅力をもった「夢」である。ここには複眼を必要としない詩的現実がつくりだされている。《安》

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