2017年5月3日水曜日

骸炭山

   骸炭山

   (一)

錆びついた針のような葦だ。
なんとなく人をよせつけない。
白衣が二つ風に吹かれてゐる。
ときどき顔をあげてこちらをうかがつてゐる。
どこをどう廻つてゆけばいゝのかわからなくなつた。えらい場所(ところ)へ来てしまつた。
前の泥溝(どぶ)川に樺色の寒さうな夕焼が映つてゐる。
そのまゝ動かない。

   (二)

ああ急に暗くなつてきた。
夕闇にヌツと黒い大きな影法師。
どの煙突もどの煙突も気のせいかかすかにワーンとうなつてるやう。
川向ふに誰かが立つてあたしたちの方見てゐる。
道に迷つたのかしら あのひと。
ね。もつと拾ふの?
もうこれつ位で止さうよ。
寒いわ。


「骸炭」、すなわちコークスは、石炭を高温乾留して得られる、多孔質で硬い炭素質の固体のこと。火つきは悪いものの無煙燃焼し、火力は強く、製鉄その他の鋳物やカーバイド製造の原料、燃料などに用いられたいます。

ですから「骸炭山」というのは、石炭の採掘に伴って発生する捨石(ボタ)の集積場であるボタ山を連想すればいいでしょうか。

鉱山で採掘された鉱石のうち、資源として使えず廃棄する岩石などの部分を捨石、俗称でズリといいます。ズリは特定の場所に集められて捨てられますが、長年にわたり捨て続けているうちにズリは積み上げられて、やがて山になります。九州の炭坑でズリはボタと呼ばれているのです。

ボタ山・ズリ山は鉱山保安法で捨石集積場と呼ばれます。捨石集積場の比高は数十mに及び、崩壊しやすいのが特徴です。また、石炭分が多く含まれることがあるため、自然発火することもあります。ボタ山は、炭鉱閉山後は「負の遺産」として位置づけられる一方で、日本の近代化を支えた石炭産業の象徴でもあるのです。

*二篇で一対となっている。ここへたどりついた男も、ここで骸炭を拾っている子供たちも、その影のなんと淡いことか。そのうえ、風景さえも淡い。ただ、どうしようもないほど、泥のように濃く影を落しているものこそ、小野が発見した「葦の地方」の後輩そのものである。《安》

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