2017年5月5日金曜日

或夏の真昼の歌

   或夏の真昼の歌

やゝ天に近く
山国の陽は翳る。
どす黝い樹々の簇葉の熱気の中
全山の蝉鳴きしきり
巨砲覆はれて山間をゆく。
見よ、なんぢの砲なり。
蜿蜒としてしづかにいま郷国の鉄路を通過するは。
野には壜刷毛を立てたるが如く雑草蔓延し、鬱然として砂をかぶれり。


「簇葉」(そうよう)は、群がって生える葉っぱ。中勘助の『島守』に「我がちに日光を貪る木木の簇葉は美しい模様を織りだして自然の天幕となり、ところどころのすきまからはきれぎれの空がみえ、その小さな空を横ぎって銀いろの雲がゆく」とあります。

「蜿蜒」(えんえん)は、「蜿蜒長蛇の列をなす」などと、蛇がうねりながら行くさま。また、うねうねとどこまでも続くさまを表します。

「壜刷毛」(びんはけ)は、瓶のなかで使うような、小さくて繊細なハケのイメージでしょうか。

*力感あふれる佳作。巨砲をして語らせ、雑草をして語らせる方法が見事。砂をかぶった雑草がうすっぺらい比喩に堕さぬ骨格をそなえている。《安》

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