2017年5月8日月曜日

風景(五)

   風景(五)

家々は
いつ建つのか知るよしもない。
吹きつさらしの荒漠とした中に
それは早くも煤ぼけ古びてゐる。

海は暗く深くそして濁つてゐる。
海を見てゐると
私はなんとなく賭にかつたやうな気がする。

「(2)防空上都市内近接地を含めたる地域に工場の分布と大工場の配置を計画化すること――
精神の書を見るごとく
私はそれを見た。


戦前の国土政策に関連する法律としては、当時から工業化に伴う都市化に対応するための1888(明治21)年の東京市区改正条例や、1919(大正8)年の都市計画法が挙げられます。それは、大都市の人口増大に対応して社会施設を整備補強しようというする対処療法的なものであり、人口流入を規制したり過大都市の再開発を図ろうとするものではなかったようです。

日本本土の「防空」については当時、陸軍が重要都市、工業地帯を主体とする国土全般を受け持ち、海軍は軍港、要港や主な港湾など関係施設に対する局地防空を担当していました。仮想敵国は、大陸での決戦に主眼を置く陸軍はソ連を警戒しており、洋上での艦隊決戦が基本戦略の海軍はアメリカを最大の敵とみなしていました。

1937年4月に防空法が制定され、改正を重ね、防空壕の建設や空襲時には疎開などの民間防衛が実施されました。
航空機の来襲(空襲)によって生じると想定される被害軽減のため「軍以外の者」がおこなう「灯火管制、消防、防毒、避難及救護並ニ此等ニ関シ必要ナル監視、通信及警報」の8項目を「防空」と定義されています。

*この詩について伊藤信吉は次のように述べている。
「この詩には人をギクッとさせるものがある。これは詩の後半の部分で精神と物質との関係を、時代のモラルの問題として提出しているからである。その内容や詩的方法においても、情緒的なものの一切を排除しているからである。この詩の構成は工業施設分散計画のそのプランよりも緻密であり、詩におけるリアリズムの一典型を成している」(『詩のふるさと』)
 「賭にかつたやうな気がする」という気持は前作の「荒れれば荒れるほどいい」という一行の気持とほぼ同じものであって、「真ならざる姿」に真実の姿を見てやろうと腰を落ちつけたところなのだ。「精神の書を見るごとく」の一行には当時の小野の屈折した、だがとぎすまされた心情がにじんでいるようだ。

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