2017年6月15日木曜日

野茨

   野茨

海はいま
まつたく忘れられてゐる。
だれも家の裏口にさへ出てみようともしない。
垣根には野茨の花乱れ咲き
黒松林のかなたに
六月の海は暮れようとしてゐる。
船影もない。
ただ河口のあたりに
一日脛まで水につかつて
泥掻きのやうなもので
蜆貝をとつてゐる人がゐる。
ぽつんとひとり川の中にゐて
その人はまだ帰らうとしない。
すぐ真向ふだが遠いのだ。
あすこにゆくためには
加賀谷平林の大葦原を大廻りしてゆかねばならない。
あの人は夜にならないと帰れないだらう。
河原に白いものが見える。
脱ぎすてたシヤツか何かだ。

      〇

わらびは暗い山中に生えてゐる。
しんしんと耳が鳴るやうなしづかな山の中。
山藤さがり
わらびとる人がゐる。


「野茨」(ノイバラ)=写真、wiki=は、北海道から九州までの野原、川原、山すそなどに見られるバラ科の落葉低木。もっともよく見かける野生のバラです。

茎はよく枝分れして、ときにつる状になり、とげがあります。葉は互生し、羽状複葉。小葉は7~9枚で長さ2~5cm、卵形か長楕円形をしています。

花は5~6月ごろ、茎頂に円錐花序をなして咲き、径2cm内外で、通常は白、淡紅色になることもあります。果実(偽果)は球形で、秋から冬にかけて赤く熟します。

「加賀谷平林の大葦原」とは、いまの新木津川大橋付近の木津川沿岸のあたりなのでしょうか。いまでは工場がびっしり立ち並び「大葦原」をうかがい知ることはできません。

*風景のなかに人間があらわれるが、ここでは人間の孤独のリズムが風景の孤絶のリズムと合致している。かつての『風景詩抄』中にはみられなかたことである。小野自身のやりきれない「人恋しさ」がここにはある。

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