2017年6月28日水曜日

舟幽霊

   舟幽霊

深夜の日本海に
長鼓の音がする。
犬の吠え声がする。
陰にこもつて巫女歌(のれからく)のごとくだ。
見ればかなたに
石油ランプをともして
大きな筏がたゞようている。
筏の上には田があり畑があり
泥でかためた家や
鶏小舎なども見える。
それらは暗い夜のうねりにのつて
ぼうばくとして果しがない。
どこにゆきつこうとするのか。
その巨大な筏は
浮島のように陸をはなれて
あてなく深夜の海上を漂流しているのだ。
禿山も見える。
白いかさゝぎが舞つている。


「長鼓」=写真、wiki=は、朝鮮の大きな鼓形の太鼓。「杖鼓」ともいいます。中国の杖鼓を原型とする胴が細くくびれた太鼓で、右側の皮面は細い笞で、左側は左手掌で打ち鳴らします。日本の鼓を大きくしたような形で、松の木を削った胴に羊、馬、牛、犬などの革を張ります。

胴は全長約70~73cm、細腰部20~23cmが標準の一木作り。右側の皮は薄くて左側の皮は厚く、両面は真紅の木綿の紐で締められています。杖鼓は器楽、歌、踊りに欠くことのできないリズム楽器。宮廷雅楽や民間の俗楽、民謡、農楽、巫女楽などほとんどあらゆるタイプの音楽に用いられます。

「長鼓の音」「犬の吠え声」の比喩として用いられている「巫女歌」というのが、どういうものかはよくわかりませんが、巫女(みこ)が舞う神楽あるいは祝詞のようなものをイメージすればいいのでしょうか。

「かさゝぎ」は、カラス科の鳥。全長約45センチ。雑食性で、尾が長く、肩と腹が白く、ほかは緑色光沢のある黒色をしています。ユーラシア大陸と北アメリカ西部に分布。日本では佐賀平野を中心に九州北西部の人里近くにすんでいます。

*小野は「南北二つに割れた朝鮮を、その禿山や、かささぎの舞ってる田園や、悲しい巫女歌の音とともに、暗夜の日本海をあてどなく漂流する一そうの筏の上に乗せた」作品だと述べている。この作品にあたっては、イメージによって示された現実があるのではない。まず幻視がわれわれに衝撃を与える。そのさきに現実があらわれてくるのだ。だがそれはむしろ「読後」「詩後」のことといっていい。深夜の日本海をただよう大筏。小野でなくては書けぬ壮大な幻想である。《安》

0 件のコメント:

コメントを投稿