2017年7月12日水曜日

唐辛子の歌

   唐辛子の歌

朝鮮料理は
なぜ辛いか。
キムチという漬物にいたるまで
トオガラシを使用しないものは一つもない。
蕃紅色の大粒の朝鮮トオガラシ。
きみはそれを炊きたての飯の上にふりかけ
汗もかかずかつかつと貪り食つた。
ぼくらは別にたのしい会食をしたわけではない。
また料理というほどのものを味わつたわけでもない。
へんなまわり合せで
日本のある大工場で一年有半
蒸気すいさんのまずいめしを共に食つてくらしたに過ぎないが
破けた小包のはしからこぼれおちた朝鮮のトオガラシを見たとき
俺も一しよになつて
ふしぎに切ない郷愁をおぼえた。
辛さにも北朝の辛さがあり
大韓民国の辛さもあるだろう。
いまそのいずれが痛烈たるや知らない。
俺はただあの頃毎日君らの朝食のために
四斗樽一ぱいのヒジキの味噌汁が朱に染るほど薬味を利かせたことを想い出す。
それでもきみらは
まだまだ、まだまだと云つたものだ。
蕃紅色の大粒の朝鮮トオガラシ。
乾燥して血の色をしたやつ。
ほんとうの豪華な朝鮮料理では
さてそれをどう使うのか。
きみらの食慾の
ますます旺盛ならんことを
ねがうのみ。


「唐辛子」(トウガラシ)=写真、wiki=は中南米原産のスパイス。数千年前から、広く栽培されていましたが、15世紀末の新大陸発見以後ヨーロッパに持ち込まれ、その刺激的な辛みの魅力と強い繁殖力のため、50年ほどでアジアからアフリカにまで普及しました。現在ではもっとも重要なスパイスの1つとして、世界中の料理に欠かせない存在となっています。

インド、韓国、メキシコ、東南アジアなどの料理はもちろん、日本料理でも麺類の薬味や漬けものの風味付けに欠かせません。韓国ではキムチ、チゲなど、多くの料理で使われています。キムチに使われる唐辛子は、韓国特有の辛みが少ない大きめの唐辛子で、ほんのりと甘みがあります。男児が誕生すると縄に唐辛子をはさんで戸口に掲げる習慣があるそうです。

「蕃紅(サフラン)色」は、アヤメ科の球根草サフランの花の柱頭を乾燥させて作った顔料の赤みがかった濃い黄色。古くから香料、染料、食品の着色などに用いられてきました。色名は調理器具、文房具、日用雑貨、自転車など幅広く用いられています。

1948年8月15日、ソウルで李承晩が大韓民国の成立を宣言。金日成はこれに対抗し9月9日にソ連の後援を得て朝鮮民主主義人民共和国を成立させました。これによって、北緯38度線は占領国が引いた占領境界線ではなく、当事国間の「国境」となったわけです。建国後、南北両政府の李承晩大統領は「北進統一」を、金日成首相は「国土完整」を主張します。ここから「北朝の辛さがあり/大韓民国の辛さもある」という状態が始まったわけです。

*小野が朝鮮人を歌うと「妙に異常な愛情」があらわれると北川冬彦がいっていることは、『大海辺』の「惜別」のところですでに述べたが、この詩も例外ではない。唐辛子にたくして率直な愛情が手ばなしで語られている。《安》

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