2017年7月22日土曜日

野の夜

   野の夜

日向葵は重く
夜、地面に向って
こうべをたれる。
夜霧のかかった地平には
点々と赤い灯をつらねて
四本の巨大なポールがそびえている。
夜をこめて
爆音は絶えまもないのだ。
ときに屋鳴り震動して
それが女の抑臥している寝台のま上を
ななめに擦過するとき
牛小屋の牛は凶暴に床をけり
おびえた鶏どもはとやの中で不吉な鬨をつくる。
あけがた。
ガウンのえりをかき合せて
女がひとり窓ぎわに立って外を見ていることもある。
まだ何もさだかに見えない。
重油のにおいのする小川が
藁ぶき農家がたちならぶ
うす闇の中を
ながれているだけだ。


「ポール」とは、 細長い棒、さお。旗ざおや棒高跳び用の棒、野球場のファウルかどうかを見きわめる棒もポールと呼ばれます。測量の目標・尺度として用いる木製の丸棒のポールは長さ2~3メートルで、20センチごとに白・赤交互に塗ってあります。「地平に」そびえている「点々と赤い灯をつらね」た「四本の巨大なポール」というのは、なんなのでしょう。大規模な土木工事や建設事業のために立てられているのでしょうか、それとも詩人の想像の世界にそびえているのでしょうか。

「鬨」(とき)は、一般に戦場でのさけび声をいいます。敵味方が対陣するなかで、戦闘は、それぞれがまず「鬨をつくる」ことから始められました。として勝ったときには勝鬨をあげます。出陣に際して鬨をつくったことは、『吾妻鏡』の宝治合戦(1247)を記す部分に「城九郎泰盛……一味の族、軍士を引率し,……神護寺門外において時声を作る」とあることからも知られます。『和訓栞』には「軍神招禱したてまつる声を時つくるといひ,敵軍退散して神を送りたてまつる声を勝時と名(なづ)くともいへり」とあります。

*「四本の巨大なポール」「爆音」そして「重油のにおい」さえなければ、なにごともない野の夜のはずだが、それらがあるために、日向葵は重くこうべをたれ、肉は凶暴に床をけり、鶏はおびえて不吉な鬨をつくり、女はガウンのえりをかき合せるのだ。ここには絶えぬ爆音に押しつぶされた基地周辺が、むしろ無表情に述べられている。だが一行一行拾っていくとき、そこにあらわれる日向葵も牛も鶏も女も、小川も農家も、すべてが戦争を推し進めるものによって破壊されつつあるのだとしつように訴えていることがわかる。《安》

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