2017年7月25日火曜日

ハマスゲのたぶさ

   ハマスゲのたぶさ

坐っている足もと。
手のとどくところに
かさかさに乾いたハマスゲが生えていた。
その茎の二三本を
曲げた人さし指にからませて
手は無意識にそれを地面からひきぬこうとしていた。
けれども一寸やそっとの力ではそれはひきぬけるものではなかった。
ハマスゲの根は凍てついた土中に深くくいこみ
そこで網の目となって四方八方にひろがり
三百米さきの重油タンクをその上にのっけているのであった。
手はこんどはハマスゲの大たぶさをわしづかみにした。
わしづかみにしてぐっぐっぐっとひっぱりはじめた。
やつはそれをひきぬいたかどうか。


「ハマスゲ」=写真、wiki=は、カヤツリグサ科の多年草。ほとんど全世界に分布し、日本では関東地方以西の本州、四国、九州の海岸の砂浜、河原や日当りのよい原野に生えます。細い地下茎が横に長くはい、その先端に塊茎を生じます。稈は塊茎から直立し高さ 20~30cm、基部に数枚の葉を叢生します。

葉は線形でやや硬く光沢のある深緑色。夏から秋にかけて、葉の間から花茎を出し、先端に狭線形の総包片を1~3枚生じて、その中心から数本の茶褐色の花序を出します。塊茎からひげ根を焼いて取去り、乾燥させたものを香附子 (こうぶし)と呼んで通経、鎮痙の婦人薬として用います。

葉が数枚出たところで親株から数本の根茎を出し、先端が地上に出葉します。子株の基部が肥大して新しい塊茎を作り、そこから根茎が伸びて増殖を繰り返します。畑地に広く分布し、世界の強害雑草のトップにあげられています。刈り取りに耐性を示すので、ゴルフ場などの芝地で問題となっています。

「たぶさ」は髻、髪の毛を頭の頂に集めてたばねたところ。もとどりのことです。

*「三百米さきの重油タンク」という語があらわれるまでの十行ばかりで読者が受けとるのは、日常的な状態での日常的行為にすぎない。ところが、十行ばかり読み進んだところで突然「重油タンク」があらわれる。曲げた人さし指にからませて「無意識に」ひきぬこうとしていたハマスゲの根の先に「重油タンク」がのっかっているというのだ。そのとき手は「わしづかみにしてぐっぐっぐっとひっぱりはじめた」というのだ。ハマスゲと重油タンクとの突飛。ひきぬく行為の徒労。にもかかわらず、われわれは突飛とも徒労と感じはしない。小野の空想力の勝利である。《安》

0 件のコメント:

コメントを投稿