2017年7月4日火曜日

不知火

   不知火

ひとびとは
ふかいねむりにおちている。
波もおさまつて
しずかな夜だ。

有明海にちらばつた
さびしい島の
そのいやはてに立つている
火見櫓。
舟の帆柱の上。

まつくらな海上を
灯をつらねて
ごうごうと
すぎてゆくものがある。


「不知火」(しらぬい)=写真=は、有明海と八代海の沿岸で真夏にみられる光の異常屈折現象をいいます。海上の漁火が、実際よりもずっと多く明滅し、横に広がってみえる奇観を呈します。夜になって干潟と海面の温度に差が生じると、それらのうえの空気の密度も異なります。風があると密度の異なるこれらの空気かたまりが湾内を満たし、それがレンズと同じような作用をして光が不規則に屈折して起こると考えられています。

福岡市博多区の一地区「板付」は、第二次世界大戦前は寂しい農村でしたが、大戦中に滑走路が完成した蓆田(むしろだ)飛行場を戦後アメリカ軍が接収して、板付飛行場として整備拡張しました。この詩のモチーフになっている朝鮮戦争時には、日本本土内では最前線基地となりました。1951年から民間航空に開放されて福岡空港となり、1972年に全面返還されました。

*朝鮮戦争にかかわる詩の一つであって、小野は「九州板付基地から発進するアメリカ空軍中距離爆撃機の編隊の行方を追った」作品と述べている。「ふかいねむり」「しずかな夜」とつづく静寂を「灯をつらねて/ごうごうと/すぎてゆくもの」が刺しつらぬく。この微妙な対置のなかにこの詩は直立している。読者はこれらの言葉を慎重に測って自己の磁石の針の方向を見定めなければならない。《安》

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