2017年7月5日水曜日

火呑む欅

   火呑む欅

暗い空が
水たまりにうつつている
きみのエンピツ書きの地図は正確か。
焼跡、変電所はあつた。
酒屋もあつたよ。
その通りにやつてきたが、
さあ、わからなくなつたぞ。
ねちまつているんだ、冬の武蔵野はもう。
僕は手を口にあてゝ
十一年会わないきみの名を大声でよんでみた。
すると、どこかでたしかに一つの物音がして
また、しんとなつた。


「欅」(けやき)=写真、wiki=は、木目が美しく、磨くと著しい光沢を生じ、堅くて摩耗にも強いので、家具や建具の指物に使われています。日本家屋、神社仏閣などの建築材としてむかしから用いられてきましたが、最近は高価で庶民にはなかなか手に届きません。

伐採してから乾燥するまでのあいだに欅は大きく反っていくので、何年も寝かせないと使えません。大黒柱に大木を使うと家が歪むほど反りかえるので、大工泣かせの木材ともいわれます。そうした内に秘めた激しい性質も「火呑む欅」という言葉と絡んでいるかもしれません。

「変電所」は、発電所からの電力を利用者に送る過程で、変圧器や整流機器によって交流電力を異なった電圧の交流または直流電力に変える施設。明治後期になって、都市から遠く離れた水力発電所が建設されて数万ボルトの送電線が用いられるようになり、現在の変電所が誕生しました。電力需要が増大するにつれて次々と高電圧が採用され、変電所も高電圧・大容量となるとともに、いろんな系統との連系で役割が重要になってきました。

「武蔵野」は、東京都と埼玉県にまたがる洪積台地。だいたい南は多摩川から、北は川越市あたりまでで、古くは牧野、江戸時代から農業地に開発され、雑木林のある独特の風景で知られました。戦後の復興期、宅地化が進行し、現在では一部の公園や農地、緑地を除くと市街地が隙間なく東京郊外の武蔵野地域にひろがっています。

*十一年とは戦争が奪った時間だ。「なかまというなかま/ともだちというともだちが/みな消息をたつて/生死も不明になつたとき」(「人間の土地」)なのだ。生死不明の時代と意識を抜きにしてはこの詩の意図するところは全く不明になってしまうだろう。「火呑む欅」とは内に激しさを持つもののイメージだ。《安》

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