2017年8月12日土曜日

サイゴンの南方メコン川下流のデルタ

知らない国の
知らない土地だ。
どっちが敵で、どっちが味方か
この「ムービー・トン」のフィルムは語らない。
ただ太陽も景色も同じ。
夕映えの地平に
突如、降って湧いたように
黒い小型爆撃機が姿を現わして
水田地帯の平坦な一本道を急ぐ土民軍団を
低空から掃射してくる。
ダ・ダ・ダと
路上に突き刺さって
土煙をあげる機銃弾。
間髪をいれず
左右に散って将棋倒しに身を伏せる民たち。
知らない国の知らない土地で
いまこのときも起っていることだが
どっちが敵で
どっちかがおれの仲間であることにはまちがいない。
キーンという爆音をのこして
画面の外へ
大きな影となって飛び去ったもの。
そしてあのまだうつ伏せになっている者たち
土に顔を埋めて
起き上がらない……


「メコン川下流のデルタ」すなわちメコン・デルタは、東南アジアを流れるメコン川下流に広がる三角州(デルタ)。カンボジアの首都プノンペンから下流の沖積平野をさします。面積約7万平方キロメートル、うち約300万ヘクタールが稲作地で世界的な大産米地帯を形成しています。雨期にはメコン川の水がトンレ・サップ湖に逆流するため、メコン・デルタの稲作の安定に役だっています。雨期の冠水の深さによって三つの地域に分けることができます。

もっとも水位が高いところは浮稲栽培地帯、低いところは1回移植地帯、その中間は2回移植地帯です。浮稲は茎の長さが6メートルもある稲で、1日の成長は最大5センチメートルにも達します。メコン・デルタの米の平均収量は1ヘクタール当り1.5トンと日本の3分の1にすぎなませんが、労力も3分の1程度。デルタにはメコン川本流と分流とを結ぶ運河が縦横に走り、物資の運搬や交通に利用されています。これらの川や運河は淡水魚の宝庫でもあり、漁業も重要な産業となっています。

ベトナム戦争においては、メコン川の細かな支流に広がるジャングルや、カンボジア国境に多い小高い山に拠点を置いた南ベトナム解放民族戦線(NLF)とアメリカ軍との戦闘が繰り広げられました。アンザン省のトゥクズプや、ドンタップ省のセオクイットなどに戦争遺跡がのこっています。

*この作品もニュースの映像を小野独自のアングルにひきこんで出来あがったものである。「物象ことごとく割れて二つ」というあの断言がこの作品でも基調をなしている。つまり、「どっちが敵でどっちが味方か」わからないがとにかく人間が撃ち殺されているのだというふうには流れてしまわない。とにかく悲惨な戦争なのだというようには流れてしまわないのだ。「土に顔を埋めて/起き上がらない」者たちをみて、「どっちが敵で/どっちかがおれの仲間である」と峻別する・確認する位置に小野は立っている。朝鮮戦争を扱った作品で小野は暗示的方法によって成功したが、ベトナム戦争を扱った作品においては敵味方を峻別する思考によって鋼のような作品を生み出している。《安》

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