2017年8月13日日曜日

自然も斗いに参加する

   自然も斗いに参加する

河は
赤くにごった
巨大な水量を
下流に向っておしながしている。
しばしの晴れまに
陽を一ぱいに浴びたあたりの山肌は
浮彫されたようにあざやかだ。
生いしげった熊笹が風にそよいでいる。
水草の花の白いつぼみもふくらみはじめた。
木の間には
鳥たちもさえずっているだろう。
天地のあいだはしずかだ。
ただそこに一本の棒杭が立っていて
後ろ手にしばられた少年がその下に倒れている。
処刑は終った。
ベレーの軍帽をかぶった大男が
つかつかとよって
やおら拳銃をひきぬいた。
とどめの一発を
少年のこめかみにぶちこんだ。


ベトナム戦争では、民衆の虐殺事件もたくさん起こりました。ソンミ事件=写真、wiki=は1968年3月16日、南ベトナムのクアンナム省チュライ米軍基地の西方数マイルのソンミ(ミライ)村でアメリカ軍が一般住民500人以上を大量虐殺した事件です。事件は長く不問に付されていましたが、19か月後の69年11月になり、衝撃的なニュースとして大騒動になり、責任者のウィリアム・カリー中尉が逮捕、71年4月有罪判決を受けたが、ニクソン大統領の命令で釈放されました。

この事件は孤立した事件ではなく、無数の類似の事件のなかからベトナムにおける米軍作戦を象徴する一事件として、当時のベトナム戦争反対のアメリカ内外の世論を一挙に高める役割を果たしました。この事件は、米軍基地の安全を確保するために基地周辺を徹底的に掃討して無人地帯をつくりだすための作戦の一つにすぎなかったとされます。

*名人芸といってもいい技巧の冴えには目をみはるばかりだ。この作品が、残酷な処刑が行われたが、河はそんなことも知らぬげに流れている式の作品であるなら、なにも小野をわずらわすことはない。この作品が小野の作品でなければならぬ必然は「自然も斗いに参加する」という題名に端的にあらわれている。河も山も熊笹も水草の花も鳥たちも、ベトナムの自然が処刑の場を取り囲み、処刑をみとどける。みとどけるだけではない。ベレーの大男を「敵」として指さす。あれは敵だと。『とほうもないねがい』以後の詩にあらわれる自然は、えがかれるもの、そこにあるものというよりも、もっとアクティブな存在、積極的に人間に加担し、人間と共に動くものとして捕えられている。《安》

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